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私がデザイナーを続けている理由

まだ西暦が1900年代の頃の話‥

全く君らは「だろう運転」をしすぎるんだ。
その時の私の上司だった男は小言を言っていた。
「だろう運転」とは、「角から人は飛び出さないだろう」とか
「赤だから、あの車は止まるだろう」とか
予測や経験則だけで車の運転をすることだそうだ。
それに連なって、予測や経験則だけで仕事を進めることをさしている。
のだそうだ。
またこれは、彼のお得意のフレーズでもある。

毎年同じカタログを制作するのだが、
情けない話、毎度の事ながら、どこかしら間違いが見つかるのだ。
それは、こちらのミスもあり、クライアントのミスもある。
しかし、300ページを超えるカタログで
オリエンからはじまって、納品まで一年かかる大仕事を
実質1~2人で切り盛りするのである。

そんな仕事で「てにをは」レベルの間違いは大目に見て欲しい。
いや、もちろん間違いは良くない。間違いは間違いだ。
でも制作中は、ストレスと疲労で本当にフラフラになる。
そんな意識朦朧状態で、間違いなく課題を進行させるのは本当に並大抵のことではない。
オーバーな表現かも知れないがここまで来ると、その人間の極限の力が試される。

ドラえもんが何とかしてくれると言った死刑囚がいたが、
当然ドラえもんは何もしてくれない。
ドラえもんなぞ、この世にはいないのだ。
すべて自分で取り仕切らねばならないのだ。

だから、クライアントを現場に連れ込み仲間意識を持たせるとか、
クライアントが進行担当と、原稿担当に分かれたなら
こちらも脅し役と、なだめ役の二手に分かれるとか、
大技から小手先まで様々な実質的な技をたくさん編み出した。

そして、スケジュールを読んで「見切り発車で仕事を進める」ことは、
どうしても必要になってくる。

ところが終わると、
全く君らは「だろう運転」をしすぎるんだ。
とくる。。

前の会社は、
これに嫌気がさして退職したというのが、私のもっぱらの理由だ。
まあ他にも理由が無いではないが、
そうゆう事だった。

そして数年後。
私はまだ印刷に関係したデザイナーをやっている。
でも以前に比べて少し気楽になった。

たとえば、先日納めた仕事だけれど
これは700ページを超える力仕事だった。
仕様は上製本という、カバーに生地を巻いた作りのものだ。
1000部程度だが、この仕様は間違えたからといっておいそれとは刷り替えは出来ない。
記念式典で配るのだから、納品日だって動かしようがない。
カタログに比べたら、さる地方の団体が作るもので
ごくドメスティックな事なのだが、
仕事となれば重要度は同じだ。

この仕事も結構手間取った。
しかし、何とか仕上げて納品に至った。
後で怖いのは間違いだけだ。。。

そして2週間後…電話が掛かってくる。
「あ、●●さん?この前はありがとうね。でね…」
この辺で耳をふさぎそうになる。
眉間には一瞬でシワが寄る。

「ひとつ原稿入れるの忘れちゃってねえ。。」
「・・・・」

こういう場合はとりあえず返事はしない。これが鉄則。

「でもそれ以外は誰も何も言ってこないから、大丈夫だと思うんだ。」

「・・・・」

今度は違う意味で沈黙してしまった。
沈黙と言うより、声が出なかった。(笑)

「まあ、またなんかあったら電話するから、じゃあお疲れさん!ありがとね。」

どこが、どのように「大丈夫」なのか意味は不明だが、
とりあえず感謝されているようだった。

すべてのクライアントがこんな具合には行かないが、
今の職場の幾ばくかのクライアントはこんな感じなのだ。
だから、私はいまだにデザイナーを続けていられるのかも知れない。


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